『眠れぬ夜』<海千山千プロデュース>

 「シュールでポップなお気軽社会派演劇」を目指していますと、作・演出、そして海千山千事務所の代表 鯨エマ女史(30才)はおっしゃる。

 
彼女一人のこのユニット、1997年に立ち上げて、多い年で3本、最近は1本のプロデュース公演とか。       
なかなか興味深い題名が並んでいるので紹介してみよう。

 97年 『逃げない食卓』
 
98年 『ボーダーランド』『黒いランドセル』『サイパンはどこにある』
 99年 『三階建ての蟻の家』『パラダイスへいこう!』『マラッカからの手紙』
 00年 『つきぬける青空』
 01年 『半月』
 
02年 『いい血、炊き出し…』

 青年座出身の彼女は、なかなか精力的で、芝居の他に今年5月〜8月、サイパンで玉砕した日本軍人達の遺骨収集団に加わって、その模様をドキュメンタリー映画にした。題名は『マンゴと黒砂糖』。ちなみに、現在は上映してくれる所を探している最中とか。

 さて、この『眠れぬ夜』は医者ものである。それも、研修医のお話。

  テレビドラマ「ブラックジャックによろしく」は、若く、未熟で大甘な研修医が主人公だったが、この芝居もそういった青年が主人公だ。彼は先輩医師に頼まれて、山奥の病院で一晩だけ、当直医のアルバイトをすることになる。その病院で、彼は初めて、医者らしい貴重な体験をしていく。つまり、眠れぬ夜を過ごすことになるのだ。

 テキ屋で指を切ったチンピラが飛び込んでくる。その女房が産気づく。入院患者で徘徊癖のある産婆の話し相手になる。またその彼女を看取ることになったり…。

 一つ一つの問題に、恐れ、おじけづきながらも、誠実に対応していく若き研修医を仲田天使が好演している。     
  さらに、先輩医師、看護士、おまわりさん、その他総ての出演者が演技の達者な方ばかりであった。

 中でも老婆役の江崎甲という方は昭和6年生まれの71才。なんと私の母と同じ年齢なのだが、舞台経験がそれほどないにもかかわらず、リアリティのある演技をされていたことに少なからず驚いてしまった。

 さらに特筆すべきは演出だ。

 舞台も何もないガランとした空間に、装置はキャスターがついた木のワクが1つだけ。これがドアになったり、エレベーターになったりする。そして出演者達は、空間を円運動することを基本に、そこにあらゆるバリエーションをつけることで、見事な無対象演技を成し遂げている。つまり、病院のロビーの雑踏、長い無機質な廊下、当直室、それらを見事に現出させているのである。

 今回、病院ものを作劇するにあたり、作者は自身も過去に精神病院でアルバイトをしていたこともあって、自身の体験をもとに書き進めていったのだが、当直医にまつわるエピソードにつまった時に出会ったのが、医者で作家の米山公啓氏の本だったそうだ。

 さっそく、彼女は米山氏に原作の脚色許可を求め、それをベースに、彼女の創作の部分を加えてできたのが、この『眠れぬ夜』だそうである。

 作者の鯨女史は、御自身も女優としての意欲もたくさん持っていて、観たところ充分個性的であるのだが、私としては彼女の作家、演出家の部分を大いに買うものである。
  彼女のさらなる展開を期待しよう。

<海千山千プロデュース『眠れぬ夜』>                                     
公演日時:2003年11月26日〜12月1日 ウエストエンドスタジオ                         
作・演出:鯨 エマ 

 

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