『オムレット』 <殿様ランチ>

 “描写と描写の間に表現がある”とは私が昔、演技上師事した先生の言葉です。お芝居の中で俳優は自分の台詞を喋ります。様々な表現で身振りを交えて、いろんな世界を描写します。しかし、そういった仕事をこなした後、再び自分の所に御鉢が回って来るまでの沈黙の中にこそ、表現というものの要諦があるということなのですが、要は本番中に役者は一瞬たりとも休まずに仕事をしろということです。

 『お前、今のカットで休んでたろ!!』とドラマの現場で、このカットはオレの台詞はないからと知らず知らずのうちに気を抜いていると、先輩俳優にこう指摘されたことのある私にとって、“描写と描写の間に表現がある”との師匠の御言葉は戒めでもあります。

 さて、殿様ランチの「オムレット」における役者さん達は、皆一瞬たりとも休んでいませんでした。各自がそれぞれ役作りをした上で沈黙の時もキッチリ表現しておられました。これは大変好ましい事です。したがって“言外の言葉”が良く伝わって来ます。

 ハ〜イ、また出て来ました。これも役者にとって大事な文句というか、冒頭述べた事と同じ意味ではあるのですが、押さえておきたいフレーズです。いい役者には言外の言葉を感じるものなのです。

 さて、「オムレット」は、もとの仲間に何の疑いも持たれていない、むしろ一定の信用を勝ち得ていた男が、仲間を裏切ってしまうというお話です。その男は、舞台となる研究機関で、以前にある物質を極秘に研究する研究員達を統率する主任研究員でした。

 男はその物質を研究する重要性及び、研究の機密性を十分に認識した責任感溢れる仕事のできる主任でもありました。男が家業を継ぐという理由で惜しまれつつ研究所を辞めます。数年がたち、遊びに来たと言って再び研究所に満面の笑みで現れる男。研究員達はこの元主任を歓迎します。男が再びやって来た目的は、金になるこの物質のデータを盗むこと。裏切りです。

 このお芝居は、男が現れ彼の思惑が明らかになりコソコソと立ち回りつつ、ついにモノを盗撮し、うまく逃げようとするあと一歩のところで犯行が発覚しそうな予感を残しつつ幕となる2時間なのですが、私が大変気に入ったのは、男の欲が罪悪感が焦燥感が、そして研究員達の男に対する信用と疑念の間で揺れる感情が、張りつめた緊張感の中で実に良く表現されているところです。まさしく、描写と描写の間の表現が成されていたということになるわけです。

 さらに、役のキャラクターがバラエティーに富んでいて、役者さん達はそれを個性豊かに生き生きと演じながら、研究所の日常を観客の前に見せてくれていました。

 座長の板垣さん、次回も期待いています。

2004年4月25日(日)観劇

 

<殿様ランチ『オムレット』> 
公演日時:2004年4月23日〜25日 阿佐ヶ谷アルシェにて                      
作・演出:板垣雄亮

○次回予告○                                            
殿様ランチ Act 8『輸入メロンパン(仮)』                             
11月12日(金)〜14日(日) しもきた空間リバティにて

 

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